ごく一部で話題になってる本連載、いよいよ第三回目になりまして。
第三回目はAlf Nilssonです。
Alf Nilsson?誰それ?
アルファベット表記なのはですね、日本でもほとんど知らない人が多い奏者という事もあり、日本語表記よりもこっちの表記のほうが検索とかでも引っかかるかなぁ、ということで。一応彼の録音なんかが日本で発売される時は「アルフ・ニルソン」という表記のようですが、検索のしやすさも含めてアルファベット表記としておきます。
1940年4月1日 スウェーデン生まれのオーボエ奏者です。ストックホルム・フィルハーモニーの首席オーボエを長く勤めておりました。また、ストックホルムの州立音楽大学(?)の教授も勤めていたようです。
ほとんど日本では知られていない奏者だと思います。もちろん私もしりませんでした。ところが、ちょっとした出来事があってこの人の録音と出会いました。
送られてきたシュトラウスの協奏曲
インターネット黎明期のこと、GIJIN’S HOMEPAGEっていうホームページを運用しておりました。まだ日本でインターネットがそんなに普及していなかった1990年代後半のこと。みんながテレホーダイ(夜中11:00〜翌朝8:00まで特定番号への電話料金が定額になるサービス)とか使ってやってた時期ですね。みんなモデムつかってダイアルアップで・・・って話がアレになりそうなんでちょっと戻して。
まぁ当時はオーボエのホームページなんてあんまりなくて、検索もGoogleじゃなくてYahooで検索してた時代。当時Yahooでオーボエって検索すると、1番か2番に出て来るようなホームページでした(人気があった、とかじゃなくて、それくらい数がなかった)。
そうなると、まぁ当時インターネットとかやってたオーボエ吹きな方々とはプロ・アマ問わずに良くも悪くも(苦笑)繋がって、まぁいろんな事がありました(私はこのときの経験があってプロの方と絡むの、今でも躊躇してしまうのですが、それはまた別の話)。
その運営していたホームページ上で、私がマンフレート・クレメント(故人 バイエルン放送響の首席を勤めた伝説的なオーボエ奏者でして私が敬愛してやまない方でございます。いつかこの連載で取り上げます)が吹いたシュトラウスのオーボエ協奏曲を絶賛しておりましたら、一通のメールが来まして。
アマチュアでオーボエを演奏される方(いまは全く繋がってないなぁ・・・どうされているのでしょうか)からのメールでして。そこにこの「Alf Nilsson」という奏者の事が書いてありました。シュトラウスの協奏曲というと、その人にとってはこのAlf Nilssonこそが最高、とおっしゃいます。
いろいろやりとりしてるうちに、その方がそのCDをお送りくださる、とのこと。マジデスカ!!!!
こうして郵送されてきたのが、Alf Nilssonの演奏するシュトラウスのオーボエ協奏曲が入ったCD-Rでした。
素晴らしかったんです。誤解を恐れずに言うならば、「クリアなクレメント」。あそこまでヴィヴラートが細かくなく、フレーズも若干短いのですが、音色は上から下まで均一で、温かいんだけれど清廉な感じ。BISというレーベルの録音のせいでもあるけれど。まさに北欧のオーボエなんです(実はこの前に来日していたベルゲン・フィルハーモニーが盛岡で公演してまして、そのオーボエがこういう傾向の方で、とても素晴らしかったんです)。
とてもとても好きな演奏で、何度も聴いていたのですが、残念ながらそのCD-Rが引っ越しのタイミングで無くなってしまいました・・・。無念。
そのあと、数多くの奏者を聴いていくうちに、この奏者の名前を失念してしまい、しばらく私の中でも演奏とともに忘れてしまっておりました。
そんな中、意外な形でこの奏者の録音と出会います。
はい、まさかの「吹奏楽」です。
吹奏楽のオーボエ協奏曲といえば
2009年の夏のこと。盛岡で「DUOCONCERT OBOE&PIANO パリからの風」というオーボエのコンサートがありまして(リンクは昔の自分のBlog記事)。
このときのメインで、リムスキー=コルサコフの「グリンカのテーマによるヴァリエーション」という曲が演奏されました。Blog記事にも書いてますが、これ、原曲は「オーボエ独奏と吹奏楽のための曲」なんです。
この曲の存在そのものは実は調べた事がありまして。というのも、この前に岩手県沿岸北部にある岩手県立久慈高等学校というところの吹奏楽部演奏会にオーボエ独奏で出演した事がありまして。その時はバーンズの秋の独り言という曲をやったんですが、そのあとに「またやりましょうよー!」という話があって、吹奏楽伴奏の協奏曲っぽいのを探した事があるんですよ。
その時に引っかかったのがこのリムスキー=コルサコフ。
ただ、曲そのものは聴いたことなかったんですよね。
それがこのリサイタルで演奏されまして、なかなかに面白い曲だったんですよ(演奏の素晴らしさがあってこそ、なんですが)。それで、ちょっと原曲聴いてみたいなぁ、と思ってiTunes Storeを探したら・・・見つけまして。
指揮がロジェストヴェンスキーだったことも面白かったのですが、奏者の名前にものすごく見覚えが。
Alf Nilsson
おおおおおおお!!!!!!!!また出会った!!!!!!!こんどこそ忘れない!!!!!
まぁ、そんな紆余曲折を経て、再び私がよく聴くオーボエ奏者として戻ってらしたのです(私のプレイリストに)。
Alf Nilssonを聴いてみよう!
ではいつも通り、彼の代表録音をいくつか。といっても国内盤は出ていないので、輸入盤になります。(ダウンロード販売もしてたり、Apple Musicでも聴けます)
R・シュトラウス オーボエ協奏曲
Alf Nilssonの代表盤。もう素晴らしい。ネーメ・ヤルヴィが指揮するストックホルムシンフォニエッタも素晴らしい(カップリングの町人貴族も楽しい)。もっともっとこの録音は知られるべき。コッホよりクレメント寄り。太く柔らかい音色なのに澄んだその響きは、やっぱりこの人独特の音楽なんだと思う次第。この曲の録音で個人的5指に入る演奏だと信じてやみません。
iTunesの方のリンクも貼っときます。
Strauss: Oboe Concerto – Der Burger Als Edelmann Orchestersuite
カテゴリ: クラシック
リムスキー=コルサコフ Oboe Variations in G Minor
正直言って、ロジェストヴェンスキーが指揮してるという他は、取り上げられている曲がみんな珍曲ばかりで、ちょっとオススメしにくいところはあるのです(面白いのは面白いんですが)。ただ、このオーボエ独奏の曲に関しては、Alf Nilssonのオーボエが素晴らしくって、いや本当に素晴らしくって、曲の不思議な感じ(バックがうるさくなっちゃってソロ打ち消すよねコレ?っていう思いはあるんです)を上回って、魅力ある録音になっています。
アルバム買う、っていうのもアレだと思うんで、iTunesnの方のリンクも貼っときます。
Russian Concert Band Music
カテゴリ: クラシック
マルチェロ オーボエ協奏曲
定番曲も録音しております。というか、マルチェロのオーボエ協奏曲について、コッホの録音はC-mollなもので、ちょっとだけ違和感を持ってしまう私でございまして、d-mollでこういうオールド(失礼)な感じの演奏って、あんまり残ってないんじゃないかなぁ、と思います。
耳福の時。こういう演奏、聴かなくなりましたねぇ。
Brant: Sinfonia – Marcello: Konsert – Grieg: Fra Holbergs tid
カテゴリ: クラシック
知られざる名曲(と勝手に思ってる)リレ・ブルール・セーデルルンド オーボエと弦楽のためのコンチェルティーノ
いやー、これは知らないでしょ。リレ・ブルール・セーデルルンド という人の作曲したオーボエと弦楽のための素敵な作品。そもそもこのスウェーデンの作曲家は、おそらくこの曲くらいしか知られてないんじゃなかろうか、というくらいに知られてないんですよね。45歳で亡くなったようで、むしろ映画音楽の方で有名らしいんですが・・・。
サロネン指揮によるストックホルムシンフォニエッタによるスウェーデンのセレナーデ集というアルバムに入っており、録音も私はこれくらいしか知らないんです。
でもこれ、ホントにいい曲でして。この素敵な曲をAlf Nilssonのこれまた素敵な演奏で聴けるなんて、なんて幸せなんだろう・・・録音してくれて本当にありがとうございます・・・あぁ素晴らしい・・・。
どなたか実演でやってくれないですかねぇ。これ、本当に素敵な曲なんですよ。
Swedish Serenade
カテゴリ: クラシック
北欧オーボエの第一人者というだけでなく、世界を代表する名オーボエ奏者の一人
なぜこのひとを取り上げたのか。
いや、「極私的」って銘打ってるんで私個人の好みというのはその通りなんですけれどね。ただ、このひとは多分知らない人の方が多いんじゃないかと思っていて。
ヨーロッパのオーボエというのは、あの密集した国々でちゃんとそれぞれの奏法や伝統がある気がしています。そんな中、北欧オーケストラにおけるオーボエって、ソロのアルバムなんかを聴く機会があまりなくて、どういう奏者がいて、どういう伝統があるのか、というのがなかなか分かりません(私だけ?)。
彼を取り上げる事で、オーボエはドイツ、フランス、イギリス、アメリカ、とかだけじゃなく、もっと広い地域でいろんな伝統が受け継がれているんだ、という「世界の広さ」を感じてほしかったわけです。
実際、冒頭でも紹介しました通り、彼は音楽大学の教授もつとめておりました(現役かどうかはちょっと分からないです・・・76歳ですもんね)。例えば日本のオーボエ奏者で、丸山先生や似鳥先生、鈴木先生といった伝説的な方々に教わった方は数多くいらっしゃって、そういった方々から伝統を受け継いで(仮に海外留学されたとしても)いらっしゃるんだと思うわけです。その教えはさらに下の世代に受け継がれて、そうして伝統は(形を少しずつ変えたとしても)受け継がれていくわけです。
それと同じ事が、彼にも言えると思っています。彼が長い年月をかけて教えた生徒の数はたくさんいらっしゃるでしょうし、さらに世界中にその教え子達がDNAを分け与えていることでしょう。
彼こそは、間違いなく北欧を代表する、いや、世界を代表するオーボエ奏者の一人であり、もっともっと知られなくてはいけない方だと確信しております。
この記事を書くことで、少しでも彼の音楽が世に広まる一助となったら、とても嬉しいことだな、と思いました。
それではまた次回をお楽しみに。