ちょっと今回からシリーズじゃないけれど、不定期ではありますが、自分が個人的に好んで聴くオーボエ奏者について、その録音とともにご紹介していこうかな、と思っています。第一回はシェレンベルガー。
そもそもこの企画を考えたのには理由がありまして。
キッカケは、以前書いたこの記事です。
この記事を書いた時、結構いろんな反応をSNSとかでもらったんですよ。ただ、私が想定していた反応ではありませんでして(私としては「今ならスター奏者っていったらこの人かなぁ」ってものを期待してたんですが)。どちらかといえば「私はこの奏者が好きです」っていうもの。確かにオーボエっていう楽器は個性が出やすいということもありますから、それぞれにとってのオススメ奏者がバラバラになるのもわかります。
私自身、前の記事では自分の好みの話というよりは一般的に支持者が多いと思われる意味での「スター奏者」という書き方をしていまして、ちょっとだけ欲求不満(苦笑)。
ということで、古い奏者から新しい奏者まで、この不定期連載を通して様々な個性をもったオーボエ奏者を紹介していきながら、オーボエという楽器の奥深さをお伝えできたらいいな、と思っております。
悲しき(?)名匠 ハンスイェルク・シェレンベルガー
記念すべき(?)初回に取り上げるオーボエ奏者は、ハンスイェルク・シェレンベルガーです。
ちょっと意外な人選、と思われるかもしれません。もっと他に取り上げる人がいるんじゃね?と思われる人は多い(特にアマボエ奏者な方々にはそうかもしれませんね)と思われます。というか、それこそが私があえて初回に選んだ理由であります。
ベルリン・フィルの首席オーボエ奏者といえば、それこそローター・コッホが代名詞でした。コッホといえばベルリン・フィル、ベルリン・フィルといえばコッホ。そのコッホの後、首席奏者として君臨したのが、このシェレンベルガーです。
ところが、どういうわけかアマボエ奏者にとってはあまり好評であったという印象がありません。
コッホのような、全合奏のなかから突き抜けてくるようなあの音色とおおらかなフレージング、硬派な音楽作りは、まさに想像しうるドイツオーボエそのもの(本当にそれがドイツオーボエというものだったのか、実はコッホの個性だったのではないか、という話もありますがそれは別の議論なのでここでは触れません)。だからこそみんなコッホが好きだったんですよねぇ。
ところがシェレンベルガーは、コッホとは全く違った方向に向いているんです。とにかく美しい。エレガント。品が良い(コッホが下品という意味ではありませんよ!)。上手い(コッホが下手という意味では・・・)。
楽器も当時(今もか)主流だったマリゴではなく、シェレンベルガーはロレーを使っていました。当時のヨーロッパ有名オケでロレーを吹いているオーボエ奏者があまり知られておらず(アメリカでは主流でしたけど)、アメリカオーボエの印象もあって、なんとなくみんな、「まぁ上手いんだけどさぁ・・・」という感じであまり好まれていない、というのが彼が首席だった当時の日本のアマボエ界隈の印象です。
それはもしかしたらカラヤン時代(コッホ時代)からアバド時代(シェレンベルガー時代)への世代交代的な変化によるものもあったのかもしれません。オケの個性が変わった時期と、シェレンベルガーが君臨していた時代というのが被っていたこともあって、硬派なオケから軟派なオケ、という印象が古くからベルリン・フィルを好んでいた人たちにとっては「弱体化」と捉えられた?ちょっと当時のことは私も「印象」でしか語れないのですが、そういう側面はあったんじゃないかなぁ、と当時のいろんな反応を振り返ると、思えてなりません。
そういう評価が正しいとか正しくないとかはさておき、私はシェレンベルガーの演奏、大好きでした。正直に告白すると、コッホより好きでした。あくまで個人の好みの問題なんでそこは許してくださいw もちろんコッホは神であります。
「なんであのひとはオーボエなんて吹いてるのかしら」
まだ自分が学生だった当時、よくお邪魔していた某大学オケの練習場で、そのオケのオーボエな方とオーボエ奏者の話をしていたんです。割りとマニアックな人が揃っていたオケだったんで、オーボエ吹き以外の楽器の人もオーボエ奏者には一家言もった方がなぜか多く、コッホ、ヴァンゲンハイム、クレメント、シュマルフス、ゴリツキなどなど、往年の名奏者の名前がポンポン飛び交いまして。
そんなときにオーボエ奏者の女性の方が「私はシェレンベルガーかな」と一言ポツリ。
私自身もシェレンベルガーは好きだったのですが、好きな奏者でシェレンベルガーの名前を出す人をほとんど見たことがなかったもので、たいそう驚きました。
ところが彼女は続けてこう言います。
「なんであのひとはオーボエなんて吹いてるのかしら」
その場にいたみんなが「???」ってなって。どういう意味でそんな事を言ってるのかわからなかったんですよ。そしたらそのまま続けてこう言います。
「あんな美しい音、別にオーボエである必要全然なくて、フルートでいいじゃない。オーボエを吹くのにあぁいう音を目指すんなら、オーボエである必要全然ないのに。ってかオーボエであんな音楽ができるっていうの、本当に凄いの。フルートじゃないのに」
それを聞いて、あーーーーー、と思いましたね。おそらく世の中のオーボエ奏者があれだけの名手なのにあまり話題にしない理由って、それなのか、と。まさにこの彼女のシェレンベルガー評が、彼の奏者としての特徴を的確に表現出来ていると思います。
名手シェレンベルガーはソロでこそ生きる
オケ奏者ではありますが、あまりシェレンベルガーがオケで素晴らしいソロを聴かせてくれている、という印象がありません。どちらかというと彼はソリストであり、実際それは自覚していたような気がしています。
というわけで、まずはベルリン・フィルをバックに入れたこの名演奏からご紹介。
モーツァルト・ベッリーニ・シュトラウス オーボエ協奏曲
はい、モーツァルト、ベッリーニ、シュトラウス、というオーボエ奏者なら誰でも夢見る協奏曲の詰め合わせ。バックも名匠レヴァイン指揮によるベルリン・フィルということで、これらの協奏曲を聴いたことのない方にオススメしやすい、安定の演奏です。
オーボエ奏者といえば個性的な人が非常に多く、オーボエ奏者自身が薦める演奏って音色含めてちょっと玄人好みするものをオススメする傾向にあるんですが、この演奏なら曲そのものの美しさを楽しめます。オススメ。
この演奏からも分かるように、アバドと同じような感じなんですよ、この人。アバドが指揮する演奏って、アバドの個性を聴くというよりも楽曲そのものを聴くような、そういう印象。シェレンベルガーの演奏もまさにそれで、シェレンベルガーを聴くというよりも楽曲そのものを聴く、という感じ。そしてそれこそがシェレンベルガーの個性になっていると思います。
超絶のコロラトゥーラ・オーボエ
えーと、シェレンベルガーの演奏といったら私が真っ先にオススメするのがコレです。というかオーボエという楽器を使ったCDを何か一枚、と言われたら、オーボエ吹き以外の方にオススメするならまずコレです。コレを紹介したいから最初にシェレンベルガーを取り上げた、と言ってもいいですね(ヲイ)。
BGMとして最高です。美しい音が超絶技巧で危なげなく演奏されていくため、それが超絶技巧と気づかない、という凄さです。思えばオーケストラ奏者が超絶技巧を駆使する録音、っていうのは、今でこそ若手奏者を中心に普通にやられてますが、この時期はあんまりなかった気がします。ホリガーやブールグといった超絶技巧神は皆さんオケ辞めてますしねぇ。
とにかく聴いていただくのが一番でして、私は今でもこの演奏をよく聴きます。これ聴きながら飲むお酒もまた美味し。そういう演奏です。はい。
最近は指揮者として活躍
シェレンベルガーは2001年にベルリン・フィルを退団し、その後自分でレーベル「カンパネラ・ムジカ」を設立してあまり知られないオーボエ曲を録音したりしております。
そして最近は指揮者としての活動が多いですね。
意外かもしれませんが、岡山フィルハーモニック管弦楽団の首席指揮者を勤めております。
youtubeなどで指揮する姿も拝見できますが、意外といっては失礼ですが、なかなか聴かせてくれます。
それにしても・・・オーボエ奏者ってみんな指揮しますねぇ・・・いやお前が言うなよ、っていう意見があるのもわかるんですけど(苦笑)。
そんなわけで
ひとまず第一回はこれで終わりです。今後こうした形で私が個人的に名奏者だと思う方を紹介していきたいと思います。「この人とりあげてほしいなー」という意見なんかもしあれば、コメントとかでいただけると嬉しい限りです。次回は誰にしようかな。
というわけで、次回をどうぞお楽しみに。