最近「AIブラウザ」という言葉をよく聞くようになりました。
ページを読むだけの存在だったブラウザが、いつの間にか“理解して、要約して、時には代わりに操作する”ほど進化しています。
ただ、実際に触ってみると分かるのですが、この「AIブラウザ」という言葉はかなり広く使われていて、立ち位置の異なる製品が同じ呼称の中に混ざっています。
私は ChatGPT Plus と Google AI Pro のユーザーで、日常は Mac と iPad を併用しているのですが、この数週間で主要なAIブラウザを一通り試してみて、ようやく整理できた部分があるのでまとめてみます。
■ AIブラウザは大きく3種類に分かれる
触ってみて感じたのですが、「AIブラウザ」と一括りにするよりも、次の3つに分けるほうが圧倒的に理解しやすいです。
① AIネイティブ型(AIが主役のブラウザ)
- Perplexity Comet
- Dia(The Browser Company)
- Fellou、Strawberry など
最初から「AIと一緒に使う」前提で作られているブラウザです。
ブラウザより “AIフロントエンド” に近く、Comet のサイドバーAIのように、ページを読みながらそのまま質問できる快適さが魅力です。
② AI統合型(既存ブラウザにAIを組み込んだタイプ)
- ChatGPT Atlas(OpenAI公式名称)
- Chrome + Gemini
- Edge + Copilot
- Opera One + Aria
- Brave + Leo
従来ブラウザにAIが統合されているタイプです。
なお ChatGPT Atlas は分類上ここに置きますが、UI/UXは非常に AIネイティブ型に近い設計思想 を持っています。
③ OS内AI型(AIはOSにいて、ブラウザはその一部)
- Safari + Apple Intelligence
SafariそのものがAIブラウザになったというより、
OS全体のAI機能の一部として、Safariが賢くなっているタイプです。
Apple Intelligence は
- 可能な限りオンデバイス処理
- 複雑な処理は Private Cloud Compute(PCC) で安全に実行
という哲学を持ち、他社とはアプローチが大きく異なります。
■ 主要AIブラウザを実際に使ってみた印象
● Perplexity「Comet」
今回触った中で、もっとも“AIらしい”体験を提供してくれました。
- ページ横に常時AIがいて、文脈理解が速い
- ハイライトした部分をそのまま質問できる
- Proではバックグラウンドで複数処理も可能
情報収集の効率は圧倒的です。
▶ CometJacking:AIの知性とユーザー権限が悪用された新しい脅威
研究者による指摘で、次のような脆弱性が確認されました。
- 特定のURLを踏むだけで
- AIが“ログイン済みのブラウザと同じ権限”で Gmail や予定表を読み取り、外部に送信してしまう
これは XSS や CSRF のような従来の脆弱性ではなく、
「AIの文脈理解能力」+「ユーザー権限での行動」の両方が悪用された新種の問題です。
Comet側はすでに修正していますが、AIブラウザ特有のリスクとして象徴的でした。
● ChatGPT Atlas(OpenAI公式名称)
2025年初頭に正式発表され、名称も ChatGPT Atlas に確定しました。
- ChatGPTとブラウザが一体化したUI
- ページごとにAIをオン/オフできる
- Agent Mode による自動操作が強力
- 閲覧した内容をまとめてくれる「ブラウザメモリ」が便利
※2025/11/15時点ではMac版しかリリースされておりません・・・iPad版早く!!!
分類はAI統合型ですが、UXはAIネイティブ型に極めて近い と感じました。
その一方で、
「ここはAIに読ませても良いページか?」を常に自分で判断する必要があります。
● Chrome + Gemini
ChromeにそのままAIが追加される形なので、移行コストはほぼゼロです。
- UIが変わらず馴染みやすい
- Gmail / Docs / Calendar との連携が強い
- Android では特に自然に使える
タブをまたいだ要約や比較など、Geminiならではの広域的な分析が便利です。
● Edge + Copilot
Microsoft 365 環境では最強クラスです。
- Outlook・Teams・SharePointの横断要約
- 会議メモの自動整理
- PDFや長文の読み込みが非常に強い
私はMac+iPadユーザーなので出番は多くありませんが、
Windows環境ではもっとも実務的だった印象があります。
● Safari + Apple Intelligence
Safariが「AIブラウザ」かと言われると少し迷いますが、
Appleの哲学は他社と根本的に違います。
- できるだけオンデバイスで処理
- 必要に応じて Private Cloud Compute(PCC) がサポート
- ページ全体をクラウドAIに送らない設計
プライバシーと利便性のバランスで見ると、Appleのアプローチは非常に現実的だと感じました。
■ AIブラウザのリスクは「2つ」に整理できる
AIブラウザの危険性は難しく語られがちですが、本質はこの2つです。
① プライバシーのリスク(AIに何を見せるのか)
- ページ内容
- 検索履歴
- 入力フォーム
これらをクラウドAIに送る以上、
どこまで読ませてよいか を自分自身で判断する必要があります。
② セキュリティのリスク(AIがユーザー権限で動く)
AIはログイン済みユーザーと同じ権限でブラウザを操作できます。
そのため、悪意あるページを踏んだ場合、
ユーザー自身の操作として成立してしまう
という新しいタイプの攻撃が可能になります。
CometJackingは、その象徴的な事例です。
■ 私(Mac+iPadユーザー)の使い分け
- 調べ物・学習 → Comet
- 作業の補助 → Chrome+Gemini
- 日常ブラウズ → Safari(Apple Intelligence)
- 深いタスク・ChatGPT併用 → ChatGPT Atlas
どれか一つに絞るより、
「AIに何をどこまで読ませたいか」で使い分けるのが自然だと感じています。
■ まとめ:AIブラウザは便利さと引き換えに、新しい“責任”が生まれる
AIブラウザは間違いなく便利で、
私自身、一度慣れるともう元の環境には戻れないだろうと思っています。
ただし、
- AIにページを読ませているのは誰のAIか?
- どこの会社のAIか?
- そのページはAIに見せて良いのか?
この3つを意識しておくだけで、AIブラウザはもっと安全に使えるようになります。
2025年は、ブラウザという概念そのものが再定義されるタイミングだと感じています。

コメント